”こちらマリナ・デル・レイのヨットハーバー管理局ですが、 |
そんなわけで現在でも多くのバックオーダーを抱える中、電話やメールの応対から事務、掃除まで ただ一人雑務をこなさなければならない息子兼助手のリックの手助けが不可欠であり、特別な用事がなければ 外出が許されないこの電話の相手は、よそよそしい声で”イエス サー”を繰り返した後、 大急ぎで支度して30分程でそちらに行きますから、と言って電話を切った。 私のその成りとは不釣り合いにヨットハーバー管理局の威厳ある大男が凄むような声で携帯電話に向かって 話をしていた事に気がついた私は、その妙なやり取りが誰かに気づかれていないか辺りを見回した。 すぐ後ろで、機内預け荷物が出てくるのを待っていた紳士は、別に?と言わんばかり首を斜めにすくめた。 |
大雑把にカウントしても走っている車の半分近くがTOYATA,NISSAN,HONDA等の日本車、それも近年は 日本より多くの割合でコンパクトカーを確認できるロス空港のターミナルレーンで、日本から運んできた お客さんからのいくつかの修理依頼のアンプが入っている大きなダンボール箱の陰に隠れている私に、 いかにもアメリカンカーですと言わんばかりのバカでかい8気筒エンジンを積んだ見慣れた 真っ白いトラックが唸りながらやってきた。 『キョーダイ、カツトシ! 本当に良く来てくれた。ジョンは大親友の勝利が日本から来てきっとビックリするぞ。』 リックは私と誕生日がたった2日しか違わず、4、5年前にも2週間もかけてアメリカ大陸を 一緒に横断した仲であり、永きに渡ってお互いにブラザーと呼び合っている程気の合う存在だ。 「ジョンにはバレていないの?」 人を喜ばせる為には良い嘘ならばOKだ。ならばとことん驚かせてやろうというアメリカンウェイ。 あくまでジョンにはナイショで企画している”サプライズ”誕生日パーティー。 聞けば、ここ数日のジョンは自分の記念すべき誕生日なのにホームページに数人から お祝いの言葉があっただけだったので、 「みんな冷たいなあ」 と、ぼやいていたとの事。 しかしみんながわざとよそよそしいのがかえって本人には不自然かもしれない。 そんな話をしながら空港から真っ直ぐ続く1号道路リンカーンブルバードを マリナ・デル・レイの ヨットハーバーに停泊しているボートへ。 |
かってジョンカラザースが所有していたそのボートはリックが仕事の合間に
まめに 電装関係や内装をレストアして現在はインターネットもできるし、 シャワーもベットもある。 海の上という事で昼涼しくて夜暖かく快適。街の雑踏もなく静かで公園も 隣接しており日中は抜群の散歩コース。 夕暮れ時は素晴らしい眺めのロケーション。 いつしか我々の遊び場にもなっている。 到着やいなやリックは冷蔵庫から良く冷えたビールを2本取り出してきた。 『日本のお客さんにアナウンスしないで来たんだろ? 先月もこっちに来ていたのにお前の店はそんなに休んでいても大丈夫なのか?』 急遽決まったパーティーだったので、直前に届いた在庫品が世田谷のショップに 山積みになったままであったが、バンドの事、新しいガールフレンドの事、 バイクの事・・・etc 太平洋の反対側のまだ4月ではあるがカリフォルニアの強い日差しの下、 3本目を空にする頃にはそういう事ですら、もうどうでも良くなってしまっていた。 『仕事が終わったら明日の準備をしてからディナーをしよう。後で連絡するから適当にリラックスしといてくれ』 という訳で今日一日は海の上で一泊だね。 しばらく海を眺めながらボートの上でボーっとするが、まだ昼下がり。 そういえば今月のギターマガジンにBURRISSのRoyal Blusemanが特集されてるってボブ(バリス)が言っていたから 一応チェックしておく必要があるかなあ。 ヨットハーバーにほど近いブックセンターまで出掛けて行って洋書(当たり前か)をあさっていると、携帯にコールが。 |
『カツトシ?リズよ。カナダから今ここへ到着したわよ。今あなたどこ?』 (リズとはジョンカラザースの実の妹さんだ。彼女は70年代から80年代の初頭まで カナダのオリンピック代表選手だったスーパーアスリートで、今でも凄い鍛えていて筋肉隆々。 自国カナダではもちろん英雄的存在なので、以前一緒にレストランに行った時にたまたま近くの席にカナダ人が居て 「あなたもしかし てリズ カラザースじゃない?ワオ!」 なんて騒がれた事もあった。 選手時代にコーチがいるこの地に何年か住んでいたがその後結婚してカナダへと帰っていった。 逆に妹が寂しいだろうとこの地を訪ねたジョンがここを気に入ってしまい、現在がある。 彼らが育ったカナダのアルバータでは、春夏秋はスケートシーズンはNice! 残りは(夏の事)まあまあシーズンって言われているぐらい、寒い場所なのだとか。) 辺りにはGAPやフードマーケット、おいしいコーヒーショップ等もあるマクセラアベニューとグレンコーの 丁度交差する角のブックセンターまで迎えに来てもらい、最近いつも一緒に行くTHE WINE HOUSE(ワインハウス)へと直行。 サンディエゴフリーウェイのすぐそば、コトナーアベニューに面したホームセンター程の店内が全てお酒。 それもかなりの種類のワインストックがあり、一度訪れればその数に圧倒されてしまうだろう。 という訳でとにかく地元っ子には有名な場所だ。 リズとご主人のジョン(ご存知、リズのお兄さんの名前も”ジョン”カラザースだが)と明日の為においしいワインを物色。 3人でテイスティングカードを購入して気の向くまましこたま飲みまくる。 勿論店内のソムリエさんに好みを伝えながら吟味してゆくこのシステムがワイン好きにはたまらない。 昨日まで吹雪いていたというカナダから今日ここロスにやってきて、ここの開放的な太陽がそうさせるのか、 試飲コーナーで短時間でかなりの量を飲んで2人とも上機嫌。 今度はお腹が空いたという事で、サンタモニカ空港のすぐ側のメキシカンレストランへ。 タコス料理とテキーラカクテルによって日本から持ち込んだ体内の水分が早くも この土地のアルコールへと入れ替わってしまったようだ。 しかしいつもながらアルコールはこの地では水扱いだなあ。 でも体の構造が違うんだから初日からこれだと日本に帰る頃には別人になってしまうよ。 |
リズが空港でレンタルしてきたクライスラーPTクルーザー。 色はフェンダーのギターに例えて分かりやすく言うと 薄いレイクプラッシッドブルー。 リズは 『too Bright!』 と言っているけれど、ナイスカラー。 夕暮れのビーチにはとっても似合うはずだ。 |
おおよそこのあたりは日本でも有名な あのヒストリック ロード”ルート66”の終着点。 このまま真っ直ぐ行けばサンタモニカビーチなのだが、 あと海までもう少しのリンカーンブルバードと交差する地点に達すると 仕事を終えたリックから携帯にコールが。 『どこにいるんだ?明日の買い出しを手伝ってくれ。 その後みんなでディナーしよう。』 という訳でビーチが呼んでいるのだが残念ながらリンカーンブルバードへと左折。 |
工房にほど近いスーパーマーケットで明日の準備。 『クリス(マーティン)やボブ(テイラー)にも声掛けたんだけれど、 連絡無いんだよ。きっと出張でも出ているんだろうよ。 リー(リトナー)はもしかして用事が早く済めば来れるって言っていたけれど、 ジェイ(グレイドン)は間違いなく来れるってさ。』 |
4人で買い物をしていると 『ジョンはもう少ししたら工房から出るはずだから、 内緒でビールだけ運び込んでおく?』と、 工房からセスがギターを抱えて登場。 16年間もMIでギター製作を教えているジョンの卒業生は 世界中の楽器業界で活躍している。 その2007年度の卒業生であり、ジョンいわくナンバーワンの 超優秀生だったセスは、今年のNAMM直前から 他からのお誘いを断ってまで師匠の元で勉強中。 その器用さから来るのかリペア技術同様ギターの腕前も超一流! |