カラザースギターとフルムーンギターズを振り返って今思う事、ジョン・カラザース氏の製作するギターを輸入しはじめた5年前(2000年1月)は、どこへ行ってもカラザースという名前は聞いた事がないという反応でした。
輸入を開始してからまもなく矢井田瞳ちゃんが購入してくれて、彼女のキャリアと共に色んな雑誌で取り上げられ、追い討ちをかけるようにリー・リトナーやバジー・フェイトンのインタビューに名前が出たりして1年後辺りからようやく日本の業界でも知られた存在になってきました。
カラザースギターはその生産本数の少なさから実際に手に取る機会が少なく、本国の知名度の割には、日本の市場でのブームにさらされなかったので、今まで過剰生産も強いられずに、本当の実力が浸透したのだと分析します。
カラザースギターは一見すると表立ったったスペックやギミックがある訳ではありません。むしろ大変に地味な楽器だとおもいます。しかし彼の楽器はどれも優れた楽器の条件であるローポジションからハイポジションまで音の太さや音色が一定にキープされており、サスティーンも驚く程に良く伸び、際立ってTONEが素晴らしいので、ここ日本でもやはり“道具”としてプロフェッショナルから圧倒的に支持されたのだと感じています。 イケベ楽器リボレ店のナカジーこと中嶋氏が、「カラザースはある意味“ただの道具”でしかないんだ。このスイッチがどうとか、見た目がどうとか説明してもしょうがない、手に取って実際にプレイして初めて本当の凄さを体感出来るんだろうね。」
創り手であるジョン・カラザース氏は60年代から今まで、ジャンルを問わず様々なジャンルのミュージシャン、多くのメーカーの相談にのっているという人物で、今では業界内ではむしろ社長や経営者のポジションに上り詰めた人達の、かっての先生にあたる人です。みんな教え子が偉くなって地位が上がっていく中、何処風吹くかのごとく今日も現場で木を削るといった職人堅気な人物です。 カラザース氏に対する自分のイメージは、さしずめ図工の先生だろうか。卒業した中学校を久しぶりに訪ねたら、30年前と同じ図工室で先生は木クズまみれで作業している。挨拶をするとにっこり笑って出迎えてくれる。彼の教え子は既にこの学校の校長、そして教育委員長も彼の教え子だ。でも未だに私が近寄ると嬉しそうな顔をする先生は今日も木クズだらけ・・・。カラザース氏はそのような感じの人です。 よく「カラザースギターの特徴は?」「どんな音がするの?」「どこが凄いの?」と質問を頂くので簡単に自分が感じている事をここに書くと、作り手のお仕着せや方向性があまり無いので楽器自体は極めてニュートラルな作り。しかし機能やセットアップは物凄く追い込んであって、たとえば使用する人のシチュエーション次第で幾らでも可能性を引き出せる事が出来るギターであると。 200キロでヘアピンカーブに突っ込めるポテンシャルを持つ一方で、家族と一緒の夕暮れの海沿いドライブでも最高の時間を。そんな車はあり得ないかもしれませんが、例えるとそんな感じでしょうか。 ソリストだらけのバンドでのインタープレイ、そして自宅でのつま弾きにおいてもきっと最高の時間を過ごせる事でしょう。 私が考えるに、カラザースギターは最高の材料を使い、現在最高の腕を持つ職人が、最高の技術を用いて細心の注意で製作に取り組んだ楽器ですというぐらいしか説明出来ません。
カラザースギターはそういう玄人好みの楽器で、決して外見からでは彼の製作した楽器の本当の素晴らしさは伝わらないのではと思います。
私は一人でも多くの皆さんに楽器業界の重鎮、名工ジョン・カラザースの創る素晴らしい楽器の世界に触れて頂きたく思います。しかしブームにのせて過剰に御予約頂いたり、新しい物にどんどん買い替えたりして頂きたいと考えている訳ではありません。(実はそのようなお客様は業界発展の為にはとても重要な位置にいますが。)
*現在、ジョン・カラザース史をかなり詳しくまとめています。また様々な質問を投げ掛けると専門的な答えも返ってくるので私は大変勉強になります。また憧れのミュージシャンの面白いエピソードが満載のカラザース語録も作っていますので、こう御期待!
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