カラザースギターとフルムーンギターズを振り返って今思う事、ジョン・カラザース氏の製作するギターを輸入しはじめた5年前(2000年1月)は、どこへ行ってもカラザースという名前は聞いた事がないという反応でした。
唯一、TOKIEさんがSUB-1のアップライトベースを使って大活躍し、ベースマガジンの表紙に抜てきされるまでは、カラザースの名前も本当に限られた同業者と一部の事情通な人にしか知られていない存在だったと記憶しています。(2000年から遡る事7、8年前に、業者さんに輸入を依頼し少数を販売していた事がありますが)カラザースの名前は時々、と言っても70年代の後半や80年代前半の雑誌のミュージシャンのインタビューに名前が出てくるぐらいだったので、よっぽどの人でないとその名前は知らなかったと思います。

 輸入を開始してからまもなく矢井田瞳ちゃんが購入してくれて、彼女のキャリアと共に色んな雑誌で取り上げられ、追い討ちをかけるようにリー・リトナーやバジー・フェイトンのインタビューに名前が出たりして1年後辺りからようやく日本の業界でも知られた存在になってきました。
相変わらず当のジョン・カラザース氏本人はNAMMショーはおろか、一向に表舞台には出たがらず、マイペースな裏方さんですが、大変多くのお客様から購入後にお便りを頂き、カラザースのギターを紹介する立場にあり、本当にラッキーだと感じています。

 カラザースギターはその生産本数の少なさから実際に手に取る機会が少なく、本国の知名度の割には、日本の市場でのブームにさらされなかったので、今まで過剰生産も強いられずに、本当の実力が浸透したのだと分析します。
その為、カラザースのギターやベースは一度購入されると、その後複数本キープしておきたいとおっしゃる方が多く、中には楽器の歴史にも詳しく、ジョン・カラザースという人物を良く理解している人もいらっしゃいますし、かなり高い割り合いでプロのプレイヤーや関係者が多いのが特徴なんです。事実、SUB-1のユーザーは私が知る限りほとんどがプロミュージシャンだったように記憶しています。

 カラザースギターは一見すると表立ったったスペックやギミックがある訳ではありません。むしろ大変に地味な楽器だとおもいます。しかし彼の楽器はどれも優れた楽器の条件であるローポジションからハイポジションまで音の太さや音色が一定にキープされており、サスティーンも驚く程に良く伸び、際立ってTONEが素晴らしいので、ここ日本でもやはり“道具”としてプロフェッショナルから圧倒的に支持されたのだと感じています。

 イケベ楽器リボレ店のナカジーこと中嶋氏が、「カラザースはある意味“ただの道具”でしかないんだ。このスイッチがどうとか、見た目がどうとか説明してもしょうがない、手に取って実際にプレイして初めて本当の凄さを体感出来るんだろうね。」
名言です。“羊の皮を被った狼”こんな例えも出来るでしょう。眺めてみても楽器制作者でもない限り、際立つ情報は少ないかもしれません。(以前、ヘッド角を分度器で計ってみたという凄い人がいたらしいですが、その人、その後何か発見できたのだろうか?)
ロックイン新星堂新宿店の坂本氏も、同業者の中でもかなり“ウルサ方”の人ですが、やはり彼自身が“腕の良いギター弾き”なので、逢うたびに「ほんとうに素晴らしいね」と言ってくれています。
またTOKIEさんも現在、彼女の4本目のSUB-1をオーダー中です。本当にカラザースを気に入ってくださっているという事だと思います。

 創り手であるジョン・カラザース氏は60年代から今まで、ジャンルを問わず様々なジャンルのミュージシャン、多くのメーカーの相談にのっているという人物で、今では業界内ではむしろ社長や経営者のポジションに上り詰めた人達の、かっての先生にあたる人です。みんな教え子が偉くなって地位が上がっていく中、何処風吹くかのごとく今日も現場で木を削るといった職人堅気な人物です。

 カラザース氏に対する自分のイメージは、さしずめ図工の先生だろうか。卒業した中学校を久しぶりに訪ねたら、30年前と同じ図工室で先生は木クズまみれで作業している。挨拶をするとにっこり笑って出迎えてくれる。彼の教え子は既にこの学校の校長、そして教育委員長も彼の教え子だ。でも未だに私が近寄ると嬉しそうな顔をする先生は今日も木クズだらけ・・・。カラザース氏はそのような感じの人です。

 よく「カラザースギターの特徴は?」「どんな音がするの?」「どこが凄いの?」と質問を頂くので簡単に自分が感じている事をここに書くと、作り手のお仕着せや方向性があまり無いので楽器自体は極めてニュートラルな作り。しかし機能やセットアップは物凄く追い込んであって、たとえば使用する人のシチュエーション次第で幾らでも可能性を引き出せる事が出来るギターであると。 200キロでヘアピンカーブに突っ込めるポテンシャルを持つ一方で、家族と一緒の夕暮れの海沿いドライブでも最高の時間を。そんな車はあり得ないかもしれませんが、例えるとそんな感じでしょうか。 ソリストだらけのバンドでのインタープレイ、そして自宅でのつま弾きにおいてもきっと最高の時間を過ごせる事でしょう。

 私が考えるに、カラザースギターは最高の材料を使い、現在最高の腕を持つ職人が、最高の技術を用いて細心の注意で製作に取り組んだ楽器ですというぐらいしか説明出来ません。 カラザースギターはそういう玄人好みの楽器で、決して外見からでは彼の製作した楽器の本当の素晴らしさは伝わらないのではと思います。
また「音の特徴は?」といった、漠然とした質問にも本当にお答えしにくいんです。要は基本がしっかり作られているので“弾き手次第でどうにでも”といった印象が、既にユーザー側の共通した印象なのでは?
事実、カラザースの顧客は老若男女、ノンジャンルなのではないかと私は感じています。一体どの音楽に向いているのか、その判断は使い手が決めるべきではないかと思います。

 私は一人でも多くの皆さんに楽器業界の重鎮、名工ジョン・カラザースの創る素晴らしい楽器の世界に触れて頂きたく思います。しかしブームにのせて過剰に御予約頂いたり、新しい物にどんどん買い替えたりして頂きたいと考えている訳ではありません。(実はそのようなお客様は業界発展の為にはとても重要な位置にいますが。)
むしろ、購入する前には十分に時間をかけて熟考して頂き、購入された方はギターの良さを理解し、10年後の音までも考慮に入れて、その1本を末永く愛用し弾き込んで楽器を育てあげて頂けたら嬉しいと考えています。
そんな訳で、思い入れたっぷりのこの文章を書き上げました。どれも将来性を秘めた楽器達ですので、今後共どうぞ可愛がってあげてください。

 *現在、ジョン・カラザース史をかなり詳しくまとめています。また様々な質問を投げ掛けると専門的な答えも返ってくるので私は大変勉強になります。また憧れのミュージシャンの面白いエピソードが満載のカラザース語録も作っていますので、こう御期待!


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