最近の塗装事情について


 ジョン・カラザースに最近の塗装事情について幾つかの質問をしてみました。

>最近ではラッカー塗装を行う会社が極端に少なくなってきましたね。あえてカラザースはラッカー塗装を行わないのには意味があるのですか?
また、貴方のフィニッシュはここ日本でも評判が良いのですが、何か特別なものなのでしょうか?

我々は、大変特殊なスペシャルウレタンフィニッシュを施しています。 かってのラッカーをさんざん研究し尽くして出来上がったもので、キズに対しても丈夫で今までの多くの問題であった乾燥時に発生するクラックも起こりません。 行程もラッカー以上にサンディングとバフがけを繰り返し行い、非常に手間がかけられます。最終的におよそ0.1mmと非常に薄く仕上げられ、ラッカーやその他の化学物質と比べても大変薄いものです。

>はい。この事は業界的には良く知られている事実ですし、最近はアメリカンビルダーの多くはラッカーフィニッシュをしませんよね。しかし一般ユーザーには未だにラッカー神話があり、ラッカーというだけで音が良いと思われていているようです。そこの辺りを踏まえ、なぜそのウレタンの方がベターなのかまたアメリカでの最近の塗装の現状についておしえてください。

 最近では大気汚染の抱える多くの問題も調べあげられ、ペイント製造業者も地球上の空気を汚染してしまうのを減らそうという努力をしてきました。
また政府の機関からは製造者にラッカーの質と溶剤の量への規制を強いられました。これらの事柄が質の変化という意味では望ましく無い結果になってしまい、現在のラッカーの多くの特性に著しく影響を与えたのです。
そしてフェンダーでさえも生産性の問題の為に最近ラッカーフィニッシュを控えるようにしています。
時々そのラッカーは適切に乾かずに柔らかいままでいます。ひとたび気候や気温の変化にさらされたり、何かの原因によっては激しいクラックを生じます。また、ビニールストラップやギタースタンドのゴム部分にくっつくと、溶け出したり色が写ってしまったりします。さらにネックの裏がなお一層、ネバネバとするように感じるのではないかと思われます。
ニトロセルロースラッカーは絶えずその特性と容姿を変化させながら何年もの間、縮み続けるという特性なので、塗装時には完璧には乾燥せず木の中に入っていきません。ですからバフとコートをより多く繰り返さなくてはいけない結果、仕上がり時にはかえってぶ厚い塗装になってしまうのです。


 このインタビューはあくまで1ビルダーとしての考察であり、ラッカー塗装を否定するものではありません。事実前回工房を訪ねた時に「お客さんのギターのレストアなんだけれど、ヴィンテージだからね。ラッカーで当時の様に仕上げたんだよ」と言って、57年製PBを見せてくれました。ラッカーの持つ経年変化の持つ魅力については十分理解した上での事だと思います。
以前、ジーン・ベイカーにお話を伺った時に、“ラッカーを使わない理由は、公害などの規制によって現在では満足の行くラッカーは手に入らなくなってしまったんだ。ヴィンテージのようなね。”と語っていました。
そのような状況の下、大気汚染などの問題意識も高い欧米ビルダーは、改良を重ねたベストな塗装を編み出してきているのが塗装最前線なのだと思いました。
大変興味ある話だったのでその後、数人の国内ビルダーにも発展した今回の話題。近い内にいずれそれらもここで紹介したいと思います。
2003.4.6


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